「故郷喪失」という言葉に屈折した愛着を持つ人間である。文学フリマでゲットできて良かった。
寄稿者によって「故郷」の定義が違う。またいかに「喪失」したかも違う。故郷喪失は必ずしもノスタルジアに満ち満ちているわけではない。「故郷」に哀愁や愛しさを感じるわけでなく自ら断ち切る人間もいる。
本書内にもあるように、私も「故郷喪失」には豊富な先行研究や資料があると言い難いと感じる時がある。いままで私は故郷喪失の感情を海外文学の外国人に(ナボコフに、クリストフに)しか教えてもらうことができなかった。あるいは森崎和江の植民地喪失に。いずれにせよ遠い立場の人間たちに。現代日本に住む人間の語る故郷喪失は、なるほど新しく根深い。良書。